お好み焼きも焼きそばも、めちゃおいしー!
ケツオのくせに
お好み焼きとサービスの焼きそばが焼きあがると、るいさんはおいらの隣に腰を下ろした。
「私な、さっきトロちゃんから電話もらって、大急ぎでブログに記事アップしたんよ」
トロねえのがさつな大阪弁と違って、るいさんのは可愛らしさがある。
「んでな、あわてとったから、カツオさんのこと、『ケツオ』って打ち間違えちゃったんよお」
言ってけらけらと笑う姿に、またうっとりとするおいら。
通常なら、ふざけんじゃねえ! と腹を立てるようなことでも、こんなふうに美人から無邪気に打ち明けられたら、あっさりと許してしまえるものである。
るいさんの携帯電話で、その記事を見せてもらう。
ちなみに今は以前のブログは放置状態で、新しく立ち上げたブログで、名前もけぃと言っているようだ。
――今、トロちゃんから電話があって、長野からケツオ…じゃなかった(慌てて間違えた)カツオさんが来てるから――
トロねえもその画面を見て大笑いだ。
「これ、絶対わざとやろ!? こんだけ後に打つ時間あったら、一字訂正したほうが早いやん。
しかもカの次のキくらいなら分かるけど、なんでケまで行くねん!」
確かにおいらもこれには故意を感じたが、そこにはむしろ、るいさんのおいらに対する好意が感じられた。
「るいさん、あなたのためにこのケツオ、大阪にやってきました」
もうカツオだろうがケツオだろうが、メロメロである。
「ぶっ! ウソこくなや。仕事ついでに立ち寄っただけやんか」
トロねえが茶化してきたが、るいさんもおいらを見つめ返して、甘い声で囁いてきた。
「私のケツオ。うれしいわ」
「今度はあなただけのために大阪に来ます。トロねえなんかにはナイショで」
「会いに来て、ケツオ。二人だけで会いましょ。トロちゃんなんか放っておいて」
愛の言葉を交わす二人の横で、トロねえが毒舌を吐いた。
「けっ、ケツオのくせに、どんだけ鼻の下伸ばしとんねん。ケツオや。これからはずっとケツオでおれ!」
2009.12.18。こむぎにて。
シモネタ炸裂
子供の学校で懇談会があるというるいさんは、いったん店を離れることになった。
「二人で店番しててくれへん? どーせべつに行くとこもないんやろ?」
るいさんの言葉にトロねえは「まあな」と答え、おいらは激しくうなずいた。
店を出てしまえば、るいさんともこのままお別れになってしまう。
二人で留守番をしている間、今度は北海道のモコに電話しようとトロねえが提案してきた。
「モコな、ぜんっぜんブログの雰囲気と違うで。まるっきり清純派アイドルみたいな、女らし~いしゃべり方やねん。
わしらみたく、アホ丸出しなしゃべり方とはちゃうねん」
わしら、とは自分以外に誰のことやねんと思いながら、電話を掛けるトロねえを眺める。
「あ、もしもしモコ? 今カツオが大阪来とるんやんかいさあ。ほんで電話掛けたろ思ってな」
電話の向こうでしばらくモコは躊躇していたようだが、決心したらしく、電話を渡された。
「カツオちゃん? どうも、こんにちは。モコです…。あは」
なるほど驚くべきアイドル声だった。
ブログやコメントの印象から、ツンツンしているような女を想像していたのだが、まるで違う。
そのことを本人に言うと、
「カツオちゃんも全然違う~。もっと低いオジサン声で、代わった途端に怒られるかと思ってたあ」
と返ってきた。ブログの記事でもコメントでも紳士で優しいおいらが、なぜいきなり電話で怒る必要があるというのか。
そういえばかつて、おいらの小説を途中読みで反発した意見を言ってきたモコに対し、人生の道義を延々と説いたことがある。
それをいまだに気にしているのかもしれない。
もっともさらりと読み流して、普通に「面白かった」と言ってくるだけの読者よりも、そんなふうに真剣にぶつかってくる読者のほうが、作者としてはずっとうれしい存在だ。
そして完読した後は改心して、すっかりおいらの小説ファンになったモコである。
モコと数分話しているだけの間に、トロねえはいきなり「寒い…」と言い出して、ダウンジャケットを羽織り、テーブルに突っ伏して寝てしまった。いびきをかいてヨダレでもたらすかと思ったが、寝顔になるとけっこう可愛い雰囲気がある。
電話を切るとトロねえは何事もなかったかのように起きだして、またアホ話を始めた。
やがてるいさんも帰ってきて、再びおいらの隣に座り、
「るいさん、おんぶしてー」
「んーん。抱っこしてあげる」
というバカップル的な会話が続く。
すると二人の仲に妬いたのか、トロねえが口をとがらせて言ってきた。
「ふん。わひだってな、職場じゃモテモテなんじゃ! この前なんか一緒に現場回っとる若い子からな、『僕、トロ姉さんのことが好きすぎて、毎日トロ姉さんのこと思いながらティンコいじりしてますねん』って打ち明けられたんぞ。チンコやなくてティンコってとこに、まだ若い奥ゆかしさ感じひんか? どや? 年下からそんだけ思われるってのは? 毎日わしのこと考えてティンコいじっとる青年がおるくらい、わしがモテるってことじゃあ~!」
いったい自慢になるのか疑わしいが、トロねえは鼻息も荒くマクシタテてきた。
するとるいさんはあっさりとうなずいて話を合わせた。
「私もまあ、勝手に想像されるのはいいかな?」
こんなことを平然と言うあたり、以前のブログでエロるいと呼ばれていたのは伊達でないようだ。
「オカズにティンコいじりされるんは、全然かまわんわなー」
トロねえがガハハと笑って続ける。
「でもひつこそうなエロジジイに想像されるのは嫌やわ」
「あっ、それは私も嫌や」
「おまえが気持ちよくなれば、わしはそれでええんや~。みたいな感じでひつこそうなんはな」
「あ、でもただ寝てればいいだけだから、それはそれで楽かも。それともモーの恰好とかさせられるんかな?」
想像なのか実際の相手にするのか、なんだか分からない話に変わってきている。
「カツオならええで。わしを想像してティンコいじりしとっても」
「私もケツオならうれしいわ。想像してくれるだけでもありがたいわー、みたいなー」
「そやな。イケメンならありがたいな。わひゃひゃひゃひゃ!」
この二人相手には、普段シモネタ話などいっさいしないおいらも、多少の相手をしないわけにはいかなかった。
なんというかシモネタにありがちな淫靡な感じがまるでなく、むしろあっけらかんと爽やかなのである。
「ほいじゃおいら、偶数日にはトロねえで、奇数日にはるいさんでティンコいじりするわ。
だから31日まである月は二日連続でるいさんだから、うれしいねん」
「うれしいわあ、ケツオ」
「姉ちゃんのほうが乳デカいでぇ、カツオ」
結局夕方近くまでシモネタ話は続き、店の開店準備をする時間になってしまった。
店を出る前にトロねえがトイレに入って、飲んだ分をおそらく滝のように放出している中、るいさんとおいらは向かい合って最後の別れを惜しんでいた。
「また来てね、ケツオ。今日は会えてとてもうれしかった。今度は直接ここに来てね」
るいさんの目は真剣で、おいらはそれまでみたいに軽く冗談を言えず、奇妙にドキドキして微笑み返すのが精一杯だった。
店を出て車に乗った二人を、るいさんは店の外に出てきて見送ってくれた。
走り出しても手を振ってくれているるいさんに見とれて、危うく路肩駐車の車にぶつかるところだった。