10. 鳥沼のキャンパー。

 

 鳥沼キャンプ場は、北海道三大キャンプ場の一つと言われていた時代がある。

 規模が大きいわけではない。「キャンパー」と呼ばれる人間たちが、聖地とあがめていたキャンプ場だったということだ。

 

 キャンパーとは、僕の中の定義ではこうだ。

 

 一、同じキャンプ場に、何週間、何ヶ月とテントを張り続ける。

 二、観光などせず、ずっとキャンプ場でぐうたらしているか、バイトに通っている。

 三、「ドカシー」と呼んでいる、ブルーシートで自分の生活空間を作っている。

 

 簡単に言えば、キャンプ場で生活をしている人たちのことである。

 

 僕が誰かに「あなたはキャンパーですか?」と尋ねられたら、「そういう面もある」と答えるだろう。だが基本的には、僕は行動する旅をしている。僕は「旅人」だ。

 

 

 

 天気がものすごくいいので、出かけることにした。

 今日の行き先は隣町の美瑛(びえい)。広大な丘陵地帯に、パッチワークのような耕作地が広がっている風景で有名な場所である。

 

「絵本の木」とか「一本の白樺」とか呼ばれている、大きな白樺のところに行ってみた。CMやポスターでは知られているが、場所を知っている観光客は滅多にいない。キャンパーや旅人でも、知る人間は少ない。  

 

 

 

 

 広大な景色の中には、僕とふーすけと、遠くでトラクターを動かしている農夫だけだった。白樺のある斜面の向かいの丘には、一面に花が咲き乱れている。一番たくさん咲いているのは、デイジーと思われる白い花。

 

 ふーすけと二人で、花の丘を駆け巡った。まるで恋愛映画そのままのシチュエーションだが、現実としては馬鹿笑いして走っていただけである。

 

 そんなことをしていたら、急に体がだるくなってきた。どうやら熱がある。

 さっさと鳥沼に帰ることにした。

 テントに戻って体温計で計ってみると、なんと38度を越えていた。四十万のところのクソガキどもに、風邪をうつされたようだ。

 

 

 

 

 

 翌朝には熱も引いていたが、体調はあまり良くなかった。絵日記の絵もうまく描けない。日記の絵、看病しているふーすけがいつも以上に不気味だし、意味も不明。

 

 テントを出ると、「おもらいさん」に会った。鳥沼に毎年来ている名物キャンパーだ。久々に見たおもらいさんは、なんだかずいぶん老けたように見えた。それだけ自分も歳をとっているのだろうか。自分では実感がない。

 

 

 

 

 道を隔てた鳥沼公園に行く。鳥沼の地名はここにある沼から来ている。沼とは言っても、水はとても綺麗だ。

 

 無料のボートで、木陰の下へ。砂の底から、水が湧き出している様子が見える。水草の森の中を、鱒が泳いでいく姿も。

 それでも今年は、水が少しだけ濁っていた。驚くほど綺麗な水ではなかった。

 

 

 

 

 なんだか、全てが変わってしまったような気がした。

 数年前まで、鳥沼に来る人間なんて、一人旅のライダーくらいのものだった。駐車場からテントサイトに入ると、誰かが必ず声を掛けてきて、知らない者同士、一瞬で友人になれた雰囲気があったのだ。

 

 今は家族連れと、カップル、地元からの仲間同士で来た連中ばかりで、知らぬ者同士の輪ができることもない。キャンパーもいるが、人嫌いなのか、それとも今の鳥沼の雰囲気が合わないのか、姿をあまり見せない。

 

 

 

 

 

 

 こんな風に考えるのは、風邪のせいか。気が滅入りそうになったので、鳥沼から離れ、風呂にでも入りに行くことにした。昔からなじみの「福之湯」。

 番台のおばさんは、変わらない笑顔で迎えてくれた。

 

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