06. 北海道までの旅 その六。


 

 

 いよいよ今日で北海道に上陸できそうだ。いつものように、朝起きてから走り出すまでに、二時間ほどかかる。

 つまり、ちょっと絵日記を描いたり、朝食をとったり、用を足したり(その二、参照)してから、荷物を片付け、テントを撤収し、バイクにパッキングする時間が、毎日二時間くらい必要だということである。

 

 下北半島を北上していく。が、走り出したすぐに、猿ヶ森砂丘というところが海べりにあるのを知り、見に行ってみることにした。

 

 砂の道に入っていく。防砂林に松が植えてあり、視界は広がらない。どれだけ走っていっても、海岸までたどり着けない。

 

 ぐるぐる走り回っても、結局海岸に出ることができなかったので、あきらめて北上を続ける。

 

 たどり着いたのは、尻労(しつかり)という寂れた漁村集落。入江の向こう岸の断崖に、激しく波が打ち寄せている。いかにも「最果て」のイメージである。

 


 

 たっぷりと旅情を味わってから、もう一つの最果て、尻屋崎へ。

 ここはかつて日本一周をしたとき、景色の素晴らしさに感動した場所だ。草原の岬。素晴らしく青い海。彼方に立つ灯台に向かって、真っ白な砂利の道が伸びている…。

 

 現在は、もう素晴らしい場所ではなくなっていた。日本はどんどん景色をだめにしていってしまう。それに今日は天気も悪かった。早々に引き上げる。

 

 

 

 

 

 本州最北端の地、大間崎へ。ここから函館にフェリーが出ている。次のフェリーまで時間があったので、風呂に入りに行くことにした。日本はそこらじゅうに温泉や銭湯があるので、本当に旅しやすい国である。

 

 温泉から出てくると、荷物と一緒に縛り付けておいた日本酒の紙パックが、破れていた。ちょっと離れたところでカラスが笑っている。なぜだかふーすけはやたらと感動したように、カラスの頭の良さをホメ称えた。

 

 そうしていよいよ北海道に渡る。出発してここまで、1166.7kmを六日間で走ってきたことになる。我ながら、とてもがんばったと自慢したい結果である。日本一周の時には二ヶ月かかった大間崎までを、まさにわき目も振らず、まっすぐに走ってきたわけだ?

 

 

 

 船から函館に降り立つ。何度来ても、北海道の地を踏みしめる瞬間は感慨深い。

 だが感動に打ちひしがれている時間はないので、さっさと走り出す。もう日が暮れる時間なのだ。しかも小雨が降っている。

 

 とりあえず、市街地から離れるために海沿いを西へ。

 

 もう夕食を自炊するのも面倒な時間なので、適当なところで外食をすることにした。

 入ったところは国道から一本はずれたラーメン屋。

 

 暇そうなラーメン屋のオヤジは、ずいぶんと興味を持ったように僕たちに話しかけてきた。今日はどこに泊まるのかと聞いてきたから、松前だと答えておいた。

 本当はこの近くの適当な空き地にテントを張りたいのだが、正直にそんなことを言ったら、「いい場所」を紹介してくれそうな勢いである。

 

 

 

 

 

 

 

 はっきり言って、旅をしない人の教えてくれる「いい場所」というのは、ろくなところがない。もちろん親切で教えてくれるのだが、たいていは公園とか、駐車場の隅のような場所である。そんな不特定多数の人間が来る場所にテントを張ったら、おちおち安眠などできない。日本はもう安全な国ではないのだ。よほどの田舎なら良いが、公共の場所にテントを張るものではない。

 

 

 

 店を出ると、なぜかオヤジも一緒に出てきた。店の前に腕組みをした仁王立ちになって、

「松前までは二時間だ」

 と、僕たちを見送ってくれる。そうしていつまでも動かない。

 

 本当は右に行きたいところを、松前に行く振りをするには左に行かなければならない。まあ行って引き返せばよいのだが、引き返して店の前を走ればバイクの音を聞き、またオヤジが飛び出てきそうである。

 あたりはもう暗い。早く空き地を見つけたい。オヤジはいつまでも僕たちを見ている。

「どうするのよ」

「どうしようか」

 ふーすけと小声で相談しあう。雨は降りしきる。日は暮れている。オヤジはまだ立っている…。

 

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