『トロねえ物語』のあとがきのような独り言。

トロねえに会ってきたことにより、ふと思いつきで書くことになった『トロねえ物語』。

最初は「短期集中連載」※1としてあるとおり、内容ももっと簡単なものにして、毎日の更新で計四、五回の連載で終わらせるつもりでいました。

ちょっと小説っぽい感じの、あくまで記事のつもりだったので、第一回は絵文字なんかも使っていましたね。(今はその部分だけ削除しましたよ)

 

ところがこれが予想外の反響で、普段の旅の記事なんかよりもよほどみんながコメントを入れてくれるし、面白いと言ってくれるので、おいらだんだん調子に乗ってきました。

なんだかそれなりに詳しく書くようになってしまい、仕事がちょっと忙しかったこともあって、年を越して、なんと全九回※2の連載になってしまったわけです。

文章量も回を経るごとに長くなっていき、最後は本当に小説みたいな感じになっていましたね。

 

最終回、皆さんが「感動した」「涙がこぼれた」「ちょっと切なくなった」「暖かい気持ちになった」など、コメントしてくれたことは、本当にうれしいです。ありがとう。

一番うれしいのは、おいらがほとんどトロねえのことを良く書いていないにもかかわらず、トロねえのファンになったり、より親近感を抱いてくれる人がいたことです。

もちろんこれはおいらのテクニックで、「良い」と書かずに良さを伝える手法が成功したというわけです。

「美しい」と書かずに美しさを伝える。「楽しい」と書かずに楽しさを伝えるのは、小説の基本中の基本ですから。

 

はい。おいらは途中からすっかり小説気分で『トロねえ物語』を書いていました。

これは単なる旅行記であるこのブログの連載『ヨーロッパ野宿旅』を書くよりも、ずっと楽しいことでした。

おいらはこのブログで、たくさんの旅の写真を載せています。

みんなそれを綺麗だとか、写真が上手だとか褒めてくれるのですが、おいら自身としては、ちょっと複雑な気持ちもあるのです。

だっておいらが一番見て(読んで)ほしいのは「小説」だから。

ブログの写真や記事は、あくまでも小説を読んでくれる人たちへのサービスです。

だからおいらのことを信頼して、小説を買ってくれた人や読んでくれた人たちには、とても感謝しています。

普通買わないですよね、本の形にもなっていない、プロだか素人だか分からない人間の電子小説なんて。

すでにこの世にはネット小説家が五万といて(いや、確実にそれ以上。この表現ももう古い)、そのほとんどがまあ、言ってみればヘタクソな物書きです。

プロの文章でも大半は下手だと思うおいらが、そういう人間の文章など読みたくもないのは当然のことです。

一般の読者だって、タダだから読むけど、有料だったら誰が読むか、という気持ちですよね。

物書きだなんて自覚していない主婦ブロガーの記事のほうが、何倍も文章的に素晴らしい事もよくあります。

全国のネット小説家を敵に回してしまいそうな発言ですが、いいんです。

こんな長い文章だけの記事を読む人なんて、ほとんどいないんだから。

ちなみにおいらは自分のことをネット小説家だとは少しも思っておりません。

 

さて、ここまで読んでくれた人に、いいことを教えますね。

『トロねえ物語』を読んでいて、みなさん一番気になったのは、おいらがトロねえに本当はどんな感情を持っているか、ということじゃないですか?

あれは絶対好きだよね、恋してるよね。

と思ってくださったのなら(ここだけずいぶん丁寧な言い回しだな)、作者としては大成功です。

微妙な言い方ですか? つまり今回のこの小さな物語の主人公は、言うまでもなくトロねえですよね。

作者はその主人公をできる限り魅力的に、そして好きだという気持ちたっぷりに描かなくてはなりません。

事実、この連載中おいらは《あれ? おいらってトロねえのこと、好きなのかしら?》と思ってしまう気持ちになったものです。

特に最終回に近づくに連れて、自分の書いている物語に、自分が影響されていました。

まあだからと言って、実際以上にトロねえを美化したり、なかったことを創作したりの脚色はしませんでした。

あれは少なくともおいらの中での最小限の事実を綴った実話です。

 

それにしても、最初はただのアホ話。

ラストで夜の公園を歩いただけの話に、みなさんがあれほど熱中してくれるとは思いませんでした。

連載が終わるのが寂しいとか、ぜひ続編をとのコメントは、本当に意外な気持ちとうれしさでいっぱいです。

もちろんそれはおいらの文章以上に、実際のトロねえの人を惹きつける魅力があってのことでしょうが、そのトロねえの魅力を損なうことなく書けたのは、小説家としてのおいらの実力ですからね。

 

結局、小説はその物語の登場人物が、どれだけ魅力的であるかが大切なんだと思います。

おいらの小説を読んでくれた人の多くが、自然の描写が素晴らしいと褒めてくれます。

旅の経験から言って、自然の描写が他の小説家よりも得意なのは当然です。

だけど実は自然の描写はあまり長くならないように抑えているんです、あれでも。

描写ばかりだと読みづらくなるし、つまらないですからね。

そして一番力を入れて書いているのは、やはり人間なのです。

人と人の心の交わりを、描くに当たって最も重視しています。

『トロねえ物語』では、本当に微妙な二人の心理を皆さん読み取っていただき、ありがとうございました。

「純愛」と表現してくれた人もいますし、「姉弟愛」と比喩してくれた人もいました。

おいら自身、あのような感情をどう呼べばいいのか分かりません。

人の感情に名前を付けること自体が、ナンセンスであると言っていいでしょう。

名前を付けたところで、感情はそれこそ人の数だけあります。

けれどもその感情、名前をつけられない微妙な感情に共感してくれる人だけが、真においらの小説や、この『トロねえ物語』を理解してくれるのでしょう。

んー、なんだかこれじゃあ、やっぱりおいらがトロねえを好きみたいですか?

だからそう思ってくれれば、この文章も成功だってば!

 

※1 ブログ連載時のタイトルは『トロねえ物語。短期集中連載第〇回』でした。

※2 ブログでは第六話と第七話の間に『番外編?』がありました。