北海道

 日本一周の旅のあと、僕は世界一周の旅に出るつもりでいた。それができなかったのは
資金面の不足という理由もさることながら、北海道にハマッテしまったことが大きい。

 大自然、広大な耕作地、友情、恋、オートバイ、探検や冒険的な活動、真に心落ち着ける時間、
望むことだけをして生きていける日々――。    


 毎年夏が近づくと、もうどうしようもない気持ちになり、北を目指すしかなかった。
北海道というとんでもなく美しい土地と、そこを旅する旅人たちの魅力にぞっこん夢中となり、
もう海外など目もくれなかったのだ。北海道の旅に、人生の全てを捧げても惜しくないとさえ思っていた。


 もっとも、北海道に取り付かれてしまう人間は僕だけではない。それこそ何万人という人間が、
夏の北海道だけのために生きていると言って過言でない人生を送っているのだ。
あるいは実際に何度も旅をすることが出来なくとも、「あの夏の北海道の旅こそが人生最高の思い出」
としている者は決して少なくないはずだ。


 何度か北海道を旅するうちに、僕の旅は一般的なツーリングライダーの旅からどんどんかけ離れていった。
初めのころは、ただ道路を走るだけでも満足していたのに、それができなくなってしまったからだ。
 つまり、車道から見える景色など、北海道の風景のほんの一部分でしかない。
それ以上に素晴らしい自然が、車道を離れたところに広がっているのだ。 


 僕はライダーである。オートバイこそ最高の旅の道具だと思っている。
だが自分の足で歩いて見た風景、自分の腕でパドルを漕いで見た風景こそが、本当に美しいものだった。
いつまでも鮮烈に記憶に残り続けるものだった。